住まいの性能と健康との関わり
住まいの温熱環境という言葉をご存知でしょうか?
住まいという建物は住む人を外の環境から守りながら暮らしを包んでいます。その住まいには大きく分けて2つの性能が備えられています。ひとつは地震や台風などの安心安全に関わる耐震面での性能です。もうひとつは暑さ寒さといった住む人の居心地や快適性につながる性能です。住まいを快適なものとするために建物内外の熱の移動を防いだり、適切な湿度や室温で居心地や快適性を整えることが住まいの温熱環境です。
日本は北から南に縦に長く外的環境はその地域により気候や日照条件も大きく変わり、住まいに求められる断熱性能や快適性へのアプローチも違いがあります。住まいを考える際はその地域特性に応じて日射量や熱量の移動などを基に計画を進めることが快適な住まいをつくる上で大切な要素になります。
一方、現在住まいを建てる際は国が定めた省エネ基準制度(※平成25年省エネ基準)によって建設が多く進められていますが、その基準がどのような内容でどこまで住まいづくりに必要なのかを一般の方が知る機会は多くありません。そのため住まいを建てた後に日当たりや間取りには満足されても、暑さ寒さといった目に見えなく体感から感じることについては住み始めてから気づくことも多く、健康への戸惑いや不満を覚える事例も聞かれます。
間取りやデザインも家づくりの重要な要素ですが、快適への性能は生活と共に常に感じるほど身体や健康との関わりが大きなテーマです。住まいに関わる暑さ寒さは建築の専門家だけが知ることでなく家づくりを行う全ての人で共有することが快適な家づくりへの出発点となります。
室温は健康状態を見張るバロメーター
快適な住まいを考える上で室温は誰もが一番わかりやすく感覚としても捉えやすいツールの一つです。
日本を除く欧米諸国では室内の寒さが健康に影響を与えるリスクについて人権問題と捉え室温への基準や規定が設けられていますが、なぜか日本には住まいに対して寒さへの規定や最低室温への基準が見当たりません。なぜでしょうか?これは日本の家づくりの規定や制度が健康維持や病改善を前提として認識されていないことがその理由と考えています。
英国では2006年に「住宅における健康と安全の指針(Housing healthy Saftety Rating System)※」が設けれら室内の寒さや暑さの項目から評価を行い、この基準を満たさない住宅オーナーへは建物の改修や閉鎖、解体命令などが下されています。室温が健康に影響を及ぼすのは夏よりも多くは冬の時期。断熱性能の低い住まいでは外気の低下により壁や窓が冷気に晒され、室内にも容易に冷気が伝わることから室温が下がり様々な健康リスクが伴います。室温を知ることは快適性のみだけでなく、健康維持や改善を見張るための重要なバロメーターなのです。(※図出典:英国住宅における健康と安全の指針HHSRS)
室温と体感との間には性能で違いがある
比較的古い住まいや断熱性能の低い住宅では室内を寒さからエアコンなどで暖めたいときになかなか暖まらなかったり、部屋の位置や高さ低さによって暖かさの違いやばらつきを感じることがあります。これは室内を包む建物の気密性や断熱性能の低さが原因です。気密や断熱性能が弱い場合、建物自体の熱容量が小さいため室内を包む窓や壁、天井や床などの表面温度も温まるまでに時間を要し、またすぐに冷めやすい傾向でもあります。
一方、しっかりと気密や断熱性能が施された住まいであれば熱容量が上がり室内外の熱移動も安定してきます。これにより室内を構成する壁や窓、天井や床の表面温度も一定以下の温度には下がらず常に快適で心地よい体感をもたらします。同じ室温設定でも表面温度の作用で体感に違いがあるのはこのためです。暖房やヒーターの前だけが暖かいということではどこか居心地も悪く我慢がつきまとうものです。まずはしっかりと建物での性能を満たし夏も冬も魔法瓶のような外気に左右されない住まいが健康で快適な住まいと言えます。
寒さが増すと健康リスクも高くなる
家庭内での起きる事故や健康リスクで一番高い季節は冬の時期。これは気温の低下に伴い室内もその傾向に比例し低温から様々な疾患や血圧の変動を引き起こしやすいためです。その中で非常に高いものが入浴前後や水回りの場で起きるヒートショックによる事故。特に冬場は寒さから呼吸や血圧の変動に対し身体への負担が大きくなり毎年多くの方が低温の障害で亡くなられる報告が伝えられ深刻な社会問題とされています。
こうした冬場での家庭内の事故もやはり住まい温熱面の性能の弱さが原因です。特に高齢者ほど寒さ暑さを我慢をすることが良しとする傾向もありリスクへの対策が遠回しになって事故に至ることにつながっています。昔から「冷えは万病のもと」という格言があるように、冷えから始まる様々な病は気をつけようとの認識がありながらその対策が施されていないことが報告によって示されています。
(※図出典:東京都監察医院・東京ガス都市生活研究所より)
断熱性能が上がると健康状態は改善する
上のグラフは近畿大学建築環境システム研究室で行われ発表された低断熱性能の住まいから高断熱性能の住まいへと転居された方々への健康改善効果に関する調査資料です。調査は30代から40代の働き盛りの世代とその子ども世代である10代の男女を対象に行われ、結果では性能の低い住まいで住んでいた方の症状が高性能の住まいに入居されたことで多く改善されたことが報告されています。
特に注目する点はG3とされる平成4年に施行された省エネ基準からG4とする平成11年の省エネ基準への転居よりも、G4からG5(北海道省エネ基準:ZEH相当レベル)への転居の方が大きく改善された報告となっています。これは気密や断熱の性能が上がることで寒さへの環境が改善され、その結果心身への負担やストレスが少なくなり多くの症状が改善につながったことが想像出来ます。住まいの性能を上げることは健康維持や体質改善にとって密接なつながりを持ち切り離すことの出来ない要素であると言えます。
(※図出典:近畿大学建築環境研究室 岩前篤教授 高断熱の健康改善効果より)
性能の高い住まいのいくつかの注意点
高性能な住まいと健康の関わりについてお伝えしましたが、住み方ではいくつかの注意点があります。
1 夏場の日射は適切に遮蔽する
高断熱の住まいでは気密性能、断熱性能共に優れているため夏の時期の日射の入り方には注意が必要です。特に東面や西面では太陽高度が低く陽射しが真横から差し込むと室内に侵入した熱が逃げにくくなります。室内を快適に保つにはその地域の方位に応じた適切な日射遮蔽が大切です。また日射遮蔽は内部よりも外部で行うことが効果的。遮熱型の窓を設けた上で外付けの日よけやスクリーンを設けることで室内に入り込む日射を効果的に防ぐことが出来ます。
2 空調の不要な春や秋は積極的に外気を取り入れる
高断熱の住まいでは夏や冬以外の比較的空調を必要としない春や秋の時期に冷房負荷が高くなるとする報告があります(※)。これは春秋の中間期において日中の最高温度が冷房設計温度より低く、窓を締め切った状態のままでは日射量や内部発生熱で熱こもりを起こす易くなり、結果冷房負荷も高くなると報告されています。(※本音のエコハウス 著者:鎌田紀彦より)
3 冬場の乾燥は暖房機の選択+生活加湿で考える
高断熱の住まいに住む方から冬場室内の空気乾燥がするというお話しを聞くことがあります。この点については高断熱の住まいが石油ストーブなど蒸気を発生するような暖房機を使うことを前提としていないことと、多くはエアコンからの温風の吹き出しにより起きるものと推測しています。もともと冬場は気温が下がるため乾燥しやすい条件が揃い、そこへ温風で室温を上げようとするとどうしても乾燥を加速させる傾向になります。対策は暖房機の選択と生活で取り込める適度な加湿です。無風で温めることの出来る暖房機の選択や、住まいの暮らし方に応じて適度に加湿を与えることが乾燥への対策となります。
性能とデザインで居心地のよい健康的な住まいを
住まいの性能と健康との関わりについてお伝え致しました。住まいの性能は端的に言えば壁や窓、床下や天井、基礎や屋根といった部分への仕様のことであり、暮らしの中では窓以外は直接目にすることはありません。しかしその恩恵効果は暮らしの中で体感を通じてしっかりと伝えれます。また、それだけに留まらず性能の良い住まいは光熱費削減にも効果を発揮するなど家計の軽減にも期待出来るものがあります。健康を保ちながら同時に資産価値の維持にもつながる住まいが豊かに長く住める家と言えます。
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