宮崎県児湯郡の建築設計事務所「とやま建築デザイン室」

宮崎県児湯郡にて住宅設計に関わるご提案を行っています。

菖蒲池の家

菖蒲池の家(しょうぶいけのいえ)2019.06.20

この住まいに住む Iさんご夫妻は共にご高齢の住まい手さま。
お住まいは昭和15年に建築された母屋部分(伝統工法の造り)と昭和47年に増築された部分がつながる住まい。とやま建築デザイン室で平成24年に耐震診断を行いその時の評価は基準値以下の結果となり耐震補強の必要が求められましたが、ご予算の都合で一旦補強工事は見送りになりました。

その後平成30年愛知建築地震災害軽減システムによる低コストの耐震補強が誕生したことにより再び当室で補強計画を開始。
ただし、Iさんご夫妻が高齢化していることもあり住まい全体に補強を施す意味や必要性はないとの協議により部分補強の計画へ移行し、Iさんの希望で夜寝ている間に地震が来てしまっても安全なようにと寝室のある棟の部分の住まいを補強する計画へと進みました。

また、お住まいへの再訪問時の冬、外気で部屋が冷え切っていたあまり、Iさんに寒さについてお尋ねすると「確かに冬寒いです」とのお返事。寝室のある増築部分は古いつくりから床、壁、天井と全く断熱が施されていなかったため、断熱の必要性をお伝えして耐震補強と合わせて断熱補強の工事を行う流れとなりました。

工事期間は約1ケ月。補強を行いながら Iさんご夫妻の住まいを改修します。

  01補強工事前の準備(置き家具類の整理処分)

ここから補強計画と補強工事のことを織り交ぜながら綴ってまります。まずは現場風景から。補強工事の着手と同時に補強部屋にある既存の置き家具を運び出す作業から始めました。事前にIさんに使うものと使わないものを整理して頂いて、使うものだけを残し他のものは全て工事前に処分することになりました。

こちらの家具は再利用する家具。別の部屋に移動します。

こちらは廃棄処分するもの。まだ使えそうな気もしますが、ここは潔く処分となりました。

既存の寝室で使っていた畳。まだ使えそうな気もしますが、こちらも潔く処分となりました。

今回補強工事を行う部屋(洋間4.5帖)板張りの床ですがもともとは和室だった部屋。

今回補強工事を行う部屋(寝室4.5帖)こちらは畳を撤去した後の状態。同じく和室として利用。
中の物が無くなると再び部屋としてのいろいろな活用が感じられそうな気がします。
これから補強工事を進めていきます。

  02 改修部分は既存増築棟 (2019.6.25更新)

今回の改修場所は母屋と納屋に挟まれた位置にある既存増築棟の範囲。こちらは昭和47年3月に増築され Iさんのお母様が住む場所としてお使いされていました。現在、お母様が高齢で病気療養中のため空き部屋となったため Iさんが寝室として使われています。補強については当初母屋を含めての希望を持たれていましたが、ご予算の都合で全体補強は断念。Iさんごご夫妻の希望より寝ている時間に来る地震から少しでも身を守りたいとのことで、今回この部分を改修することになりました。

増築部分の構成は南向きの明るい方角に4帖半の寝室と洋間が並び、廊下を挟み北側に洗面室、浴室、トイレ、洗濯室などの水回りの部屋が置かれています。今回補強を行うのは廊下を含むこの6室。耐震については壁と天井部分の補強、断熱については床、壁、天井のそれぞれに断熱を施し、断熱窓の設置も行います。ただし、洗濯室は日常ずっといる部屋ではないため断熱補強範囲からは除外で計画を立てました。

改修の現場はどこでも一緒ということはありません。現場の造りに応じた改修を常に求められます。

  03 解体から耐震補強まで(2019.7.04更新)

今回の補強計画はふたつの居室(寝室・洋間)を中心とした壁部分の補強です。基に筋交いが入っている部分は金物を付けて補強を行い、壁の中に何も補強材が施されてない壁については新たに筋交い材や構造用合板で耐力を上げていく計画です。

補強を可視化したものが上の図です。各部位に応じて筋交い材また構造用合板による補強を行います。

 

工事着手


二部屋に置かれていた不要となった荷物の運び出しが終わった状況。ここから早速工事着手。まずは補強する壁の解体からスタートです。



行きよいよく寝室の西壁から解体し始めると壁の下の部分に「ん?」と気になる部分がいきなり目に入ってきました...。よく見るとそれは筋交い。


写真中央の斜めの部材が筋交いです。通常、筋交いは柱の根本に添えるように施工されるはずですが、ここではなぜか柱に突き刺す(突き抜けてる)ように設置されてあり、筋交いとしての機能を果たしていないことが判明されました。「ん~、これでは補強として使えない。。」と認めざる終えながら、住まい手の I さんにその旨を報告。既存の筋交いは外壁の下地としては機能しているため、このまま残した上で部屋内側に新たな筋交いを設けることの了解を頂きました。


早速新たに筋交いを追加して補強された壁。なんとか柱の厚み内に納まったけれど、補強金物の納まり上この部分の壁仕上げは真壁(柱が見える壁仕上げ)から大壁(柱を見せない壁仕上げ)へと変更となりました。


こちらはその横の補強壁。既存では窓だった部分を住まい手の I さんの要望で窓から壁(補強)に変更されました。

 

続いて天井面の補強。天井面は調査時に天井裏に上り部材構成を先に確認した上で、壁の四隅の上に入る火打ち材という斜めに使う補強用の水平部材が施されていない箇所を補強する計画となりました。上図の赤い丸部分に新たに火打ち材を施す計画です。

今回は寝室、洋間両部屋の堺となる壁部分も新たに補強するため、その壁上部に補強梁が必要となり両部屋の天井を解体撤去。先にお伝えした通り部屋四隅上の部分に火打ち部材を入れて補強します。


こちらが補強に使用する火打ち材(鋼製火打ち材)一方からのビス止め可能な仕様で両端部分を既存の梁面へビス止め設置します。

既存桁面にビスを打ち込み設置完了です。

 


続いては寝室と洋間の間に新たに設ける補強壁のための梁材の設置です。通常はほぞを施しそこに打ち込むように設けられますが、上部の小屋は触らずにそのままで工事を行うため後付け用の金物を用いて設置します。

こちらが梁受け用の補強金物です。室内側よりビス固定出来るものを選択して取り付けて行きます。


梁受け金物を設置している様子。既存の桁に指定のビスを打ち込み設置します。


梁受け補強金物の設置が完了しました。合わせて火打ち補強材(手前)の設置も完了です。

 

続いては室内側の壁に施す構造用合板による耐力壁の設置です。計画では内部の壁も筋交いによる補強を予定していましたが、既存壁の下地材が容易に触れないことにより構造用合板を用いて補強を行うことになりました。まずは既存壁に構造用合板を受けるための受け枠材を設けていきます。

こちらは構造用合板を受けるための枠に使われる釘。半間(90センチ幅)の壁と1間(180センチ)の壁で長さが変わるためこのように色分けされてあります。今回は半間、1間の壁を設けるため両方の釘を使います。上の緑色の釘が半間用のN75の釘。下の紫色の釘が1間用のN90の釘です。N90の方が長い仕様です。

こちらは構造用合板専用の釘(N50)。長さは5センチ。それぞれに色分けされてあるので現場での選択ミスがないように配慮されてあります。

構造用合板壁の設置は釘間隔についても決まりがあり先に設けた受け材に向けてN50釘を10センチ間隔で打ち込んで設置します。


断熱材の施工と説明の順番が前後しますが構造用合板による補強壁を設けてる様子です。今回は土台下から上部の梁下まで合板による補強壁を設けます。上梁下端まで張り込めば構造用合板壁の設置完了です。

  wallstatにて補強計画の地震動を確認

今回、補強計画に合わせてwallstatによる補強計画の解析も行いました。wallsatとは京都大学生物圏研究所の准教授 中川貴文氏により開発された木造住宅用の倒壊解析ソフト(無料)です。このソフトに計画する建物や現況の建物の仕様を入力することで、地震が発生した際の建物の揺れ具合や倒壊の様子を視覚的に確認することが出来るものです。今回の計画を地震動「極稀地震」1倍、地盤条件「第1種地盤」方向「X方向」で解析を行ってみました。

解析による揺れの状況は母屋の方の一部の部材が崩落した様子で補強を進めている部分は揺れに耐えている様子です。実際地震が起きた場合同じように揺れるかどうかわかりませんが、このよう先に可視化することでどれくらいの揺れに耐えるのか耐えられるのかを見れることは対策のひとつとして非常に有効なツールと思います。Iさんにも解析動画を見て頂いてご理解を頂きました。

以上、ここまでは解体から補強に至る補強計画と工事内容です。引き続き工事を進めてまります。

  04 断熱補強工事 床・壁・天井 (2019.8.09更新)


前回までの耐震補強工事を終え、続いて行うのは断熱補強工事。今回補強を行うエリアは先に耐震補強を行ったふたつの居室(寝室・洋間)と廊下を挟んで北面にある水回り(洗面脱衣・浴室・トイレ)の範囲。既存では床・壁・天井と全ての部位において断熱は全く施されてない状況です。このエリアの断熱補強を行い部屋と水回り室との間に室温差が生まれないよう断熱性能を高める計画です。


上図は補強部分を断面として見た計画図です。補強する部位は部屋を構成する床・壁・天井面の全てに加え、窓まわりについても断熱補強を行います。壁と天井については内部から仕上げ材を剥ぎ取り室内側からグラスウールを隙間なく敷き詰める形で補強します。床部分については予算の都合より床仕上げ材を壊さず補強する計画のため、今回は狭い空間でも施工が行い易いウレタン吹付けによる断熱で補強します。


高性能グラスウール断熱材

今回壁と天井の断熱補強で選択したのは高性能グラスウール断熱材。グラスウールは新築改修問わず木造の断熱材として最も実績があり扱いやすい点が特徴です。グラスウールは密度に応じて規格され密度が増すごとに高い性能を持つ断熱材となります。今回選んだものは密度16kg(/m3)の高性能のグレード。地域区分による省エネ等級では4等級に当たる断熱材です。



梱包を解き袋状となったグラスウール。この断熱材を壁と天井面に隙間なく敷き詰めていきます。


断熱補強着手

ここから補強着手。解体した壁及び解体して新たに設けた天井下地部分に断熱材を敷き詰めて行きます。




壁面を終え続いて天井面の敷き込み 隙間なく隙間なく...


ここまでが壁・天井の断熱材敷き込みの工程です。次に壁上下から壁内に入り込む気流防止のための施工です。



写真のように壁の上下には壁の厚みにより天井や床とつながる部分に隙間が空きます。この部分をそのままにしていると冬の時期、天井また床下より壁内部へ冷えた空気が侵入し壁表面温度を下げてしまうことになってしまいます。そうなるといくら室内暖房しても部屋が暖まりにくいことになり、壁温度が下がらないよう気流を止める施しが必要です。




気流止めの方法も様々な方法がありますが今回は壁上下に木材を加工して部材を造り、壁上下に打ち付けを行う形で気流止めとしました。これで壁内部への気流止めはひとまず安心です。


床下断熱補強

続いて床下部分の断熱補強です。調査時に床下面に断熱が施されてないことを確認の上、どのような補強方法が良いかを結構悩みました。冒頭で少し申し上げたように今回は床板を剥がさないままでの補強となったことにより当初はボードによる断熱補強のことを考えましたが、床板を張ったまま床下に潜りボードを1枚1枚はめ込んでいく作業は困難かつ施工精度も高度なものが要求されるという結論に至り見送りました。そこで今回は移動しながら施工可能が行えるウレタン吹付けによる断熱補強計画としました。



ウレタン断熱は原液となるポリイソシアネート・ポリオールと水を反応させることにより気泡が膨らみ発泡形成する断熱材です。高い断熱性能に加え施工性が良いこと、また目地のない断面形成ができることなどから現在多くの新築住宅等で扱われている断熱材のひとつです。写真はトラックに積まれた原液が入ったドラム缶です。原液を融合させホースガンを用いて断熱対象面に吹き付けて断熱していきます。



断熱補強を行う前の床下状況。断熱が施されてない床下地がそのまま現れてる状況です。よく見ると所々床下表面から仕上げ工事で施されたと思われる釘の先端が飛び出しているのが確認出来ます。この点もボード断熱材を床下から微調整しながら施工することが困難と判断し選択を諦めた点です。

ここから床下断熱施工


断熱施工開始。作業着に着替えた職人さんが床下に潜り断熱を施していきます。


職人さんと同時に床下に潜り作業の様子を見せてもらいました。早速床下に吹き付けた断熱が発泡されています。床下の空間はスペースの高いところで約30センチ程度。作業スペースとしてはウレタンを床下に吹き付け発泡することを見込むと施工するにはギリギリのスペースでした。


またウレタンによる断熱は吹付け時に急激に発泡硬化作用を起こすため発熱する環境になります。手持ちのサーモカメラでその温度を測ると52℃。床下の狭い空間の中での吹付けは職人さんにとって過酷な状況と言えます。


続いて吹付け厚みの測定を行います。測定はウレタン専用の測定機を用い吹付け面に差し込み差し込まれた目盛りを読み取り測定します。

吹付け厚みの測定の様子。写真では目盛りは読み取れませんが計画した厚さ80ミリを有しています。




部屋下と廊下の下の全てを吹き込みました。これで床下断熱施工の完了です。


今回床下断熱を行って頂いたのはダンパック工業株式会社の田村さん。作業終了後お疲れのところではありましたが撮影のお声掛けに快く応じてくれました。暑い中での作業大変お疲れ様でした。


 リフォームでの床下断熱補強のこと 

今回の床下断熱補強では既存床板をそのままとした状態で床下より断熱補強を行いました。これは今回のお住まい手のIさんご夫妻とのお話しの中において限られたご予算の中で取捨選択を図った上で決まったことですが、床下から行う補強工事は限られた空間の中で行わなければならないこともあり、施工精度と共に非常に難易度が高い選択であったことも実感しました。一概には言えませんが床板を剥がせるのであれば一度剥がした上で補強することが、施工精度も確認し易くなり、より確かなリフォームにつながると感じました。

  05 窓・間仕切り断熱対策工事(2019.08.19更新)


床・壁・天井の断熱補強工事の次は窓と間仕切りの断熱補強工事。窓は熱の伝導や損失も大きく断熱を考える部位ではリフォームやリノベーションでも効果の高い部位。今回ふたつの居室(寝室・洋間)の窓と北側水回り(洗面脱衣・浴室・トイレ)の窓を改修部位に選定。一方、北側にある洗濯室は普段の使用頻度から断熱改修から切り離し、代わりに洗濯室と廊下との境界に内側断熱用のとしての引戸を設ける計画としました。

改修前の既存南側の窓(単板ガラス窓)


今回も前回行った改修工事と同じく既存アルミ枠は残しその枠の上から新たに断熱用のアルミ枠を被せて窓の取替えを行う方法(カバー工法)を選びました。カバー工法は既存枠を継続して利用できるため窓まわりはそのままで余計な工事を行わなくて済む工法です。既存ガラス窓本体はここで役目を終え解体撤去。昔のガラスにはその当時の模様や質感があり性能が低いのは理解出来ても撤去することについては寂しさもあります。違った形で活かせるといいんですが。。

 

高性能断熱サッシ


今回断熱補強で選択した窓はアルミ複合の樹脂窓。外側アルミ・内部樹脂枠の窓です。ガラスは遮熱型のLow-E複層ガラス。単板ガラスに比べLow-E複層ガラスの熱貫流率はおよそ1/4。窓そのものを変えることで壁や天井の部位よりも熱損失面で大きな改善効果が得られます。

 

窓取替え工事着手


ここから断熱窓設置工事。既存のアルミ枠の上から新たに窓枠を被せて設置します。

窓枠周囲止水シート設置

 

止水シートと窓枠間の気密用ウレタン断熱の施し

設置完了した断熱窓。今回は窓枠+ガラス障子のみ新調し既存雨戸は替えずにそのまま使えるようにしました。

北側浴室窓も断熱窓へ交換

設置完了した浴室窓。これで冬の入浴時の寒さもだいぶん緩和します。

 

内部建具による断熱補強

今回水回りの部屋について全ての外部窓を断熱窓へ交換する計画でしたが、住まい手さまのご予算の兼ね合いもあり洗面脱衣室およびトイレについては内側から行う断熱窓の提案を行いました。内側においての断熱窓というのは既存窓(外部)はそのままとしその内側に新たに窓を設けて断熱の効果を高める方法です。内側に設ける窓は住宅メーカーでも既製品の取り扱いがありますが、今回は予算を抑えることと現場の寸法を活かす形で造作建具工事で設置する方法を選びました。

既存洗面脱衣室の様子

トイレ室の既存アルミ窓(洗面室も同様)

 

ここから内窓設置工事

まず既存アルミ窓の内側(室内側)に内部建具用の枠を設置(洗面室も同様)

設置した枠に新たに木製建具窓を設置(洗面室・トイレ共)

外部から既存アルミ窓(単板ガラス)・内部断熱窓(木製・中空ポリカ板仕様)内部建具設置により外部アルミ枠への結露防止対策にも期待が持てます。

木製内部建具窓設置完了(洗面室・トイレ共)

 


内部間仕切り断熱補強

続いて内部間仕切りによる断熱補強です。内部間仕切りによる断熱補強としたのは廊下と洗濯室との境界にあたる部分。先述の通り北側にある洗濯室は普段利用する時間からすると長居する場所ではないことから廊下と洗濯室の境界部分で断熱区分させ洗濯室は断熱室から除外することを提案しました。そこで必要になったのは断熱区分用の内部建具。そこで今までデザイン室でも扱いかつ、断熱にも活かせる中空ポリカ板による内部間仕切りを提案しました。

既存の廊下と洗濯室の境界部分。間仕切りが設けられてないため行き来はスムーズである一方、冬場は洗濯室から廊下へ冷気がそのまま入り込む状況。

見上げると中間に下がり壁(右手)があり内部建具を設けるため解体の対象に。

段差も気になり今回間仕切り戸を設けるため土間のステップも改修対象に。


洗濯室の外部建具は改修窓から除外。この部屋は断熱改修エリアから外れるため今までと同じく夏は暑く冬は冷気が入り込む部屋のまま利用することに。

 

中空ポリカーボネート


今回断熱用の間仕切り戸に使う目的で提案したものがこちらの中空ポリカーボネート板。素材はプラスチック製で2枚の板の間に空気層が設けられてあり断熱面でも効果のある建材。また素材がプラスチック製のため割れないことに加え重さが軽いことも採用の決め手。デザイン室でも建具や間仕切りとしてよく選ぶ建材です。

今回この中からクリア品(写真右)を選びました。

 

ここから間仕切り設置工事


ポリカーボネート板はカット材で現場に搬入され建具職人さんにより建具枠に落とし込みで枠にはめ込まれます。

はめ込み及び建具据え付け完了。建具は引き込み型として夏は壁面に引き込み通風を確保させ、冬場は締め切ることで冷気を廊下面に入り込ませないようにします。立て付け完了に合わせて土間ステップも下枠の飛び出た分幅を調整。



廊下側から見た間仕切り戸

引手を引くことで壁面に収納できる造りとしました。右手にある柱は既存のままとしています。

ポリカーボネート板によって内外の明るさはそのままに涼風と冷気は住まい手さまによって適度に調整していただく間仕切り戸となりました。数値としての保証は立てていませんが廊下面も床壁天井と断熱補強を施しているためこの間仕切り戸と合わせ冬場の寒さ改善にも期待が持てます。これで断熱補強工事は完了です。今回行った断熱改修の効果については温度計を用いて検証及び確認することにしています。

 

  06 仕上げ工事~完成(2019.08.30更新)

前回までの工程を終えこれから工事も終盤。ここからは内装工事の他、床下の防蟻処理の工事に入ります。夏場真っ盛りの現場なので現場での熱中症にも注意が必要です。

壁仕上げ工事

今回の内壁仕上げは壁天井共に紙仕上げ。改修する部屋は洋間、寝室共に4.5帖の広さ。この4.5帖は元の部屋を基に決められたためこれ以上畳数で広さを確保するのは限界。そのため極力狭く感じさせない様に部屋内に設ける物入れの壁の一部アール型としました。ちょっとしたことですが見た目は角を主張せず良し的な感じです。


下地作業が終わると壁紙の裁断作業です。職人さんごとにそれぞれの専用機を持っているのを現場で見ることが楽しみでもあります。この後壁紙貼りの作業工程に入りました。


床下防蟻措置工事

続いて床下に施す防蟻措置の工事です。シロアリ等に被害を受けないようにするため床下土壌面に指定の防蟻薬液を施します。ちなみにこの日も夏真っ盛りの日。シロアリ施工の職人さんは床下での作業となるため全身作業服を着ることになりますが、さすがに暑さを感じてる様子でした。


和室床の点検口から床下に侵入します。


シロアリ施工職人さんも床下のウレタン断熱工事と同じ様に床下の土壌面に寝そべりながらの作業です。専用の散布機により土壌面に散布して行きます。こうして床下に入り改修や維持管理していくことに向き合うと床下空間の広さについてメンテナンスしやすい造りはどうあるべきか?などと考えさせられます。

◇  ◇  ◇

 竣工前清掃と既存家具の入れ戻し

全ての工事が終了し竣工前の清掃作業。専門の清掃業者にて拭き掃除。隅々まで丁寧に清掃。

清掃が終わると工事前に移動して保管していた既存家具の入れ戻し。保管していた場所からひとつひとつ運び戻します。

敷地の広いお住い。家具の移動は運びやすいですが傷をつけないため作業は慎重です。

◇  ◇  ◇

改修工事完了

終了した寝室。部屋の広さは4.5帖(改修前と同じ広さ)。床は既存のまま。壁天井は張替え。窓の構成は外部からアルミ雨戸(既存)、樹脂複合引違いアルミサッシ窓(カバー工法にて改修)、内部造作木製引き込み網戸(防犯機能タイプ)、目隠し用ブラインド。

上写真は防犯機能タイプ付で製作した内部木製引き込み網戸。計画当時は網戸が取り外せるように思案したけれど納まりが成立せず格子付の網戸で製作ということになりました。使い方は昼間在宅時は引き込み壁に収納。外出の間、室内の通風を行いたい時は鍵を掛けて外出が出来、通風を確保。(※アルミサッシの網戸では外出時はセキュリティの面で不可)一方夜間通風を取り入れたい時は、アルミの窓は開けつつ網戸を閉じて鍵を掛けることにより通風を確保しながらセキュリティは維持して使用することのできる網戸です。


外部から見た木製引き込み網戸。昼間外部から見た内部の様子はわからない(見えにくい)造りです。(内部で鍵を掛ければ外からは開けられない造り)

◇  ◇


こちらは完成した洋間。こちらも既存と同じく4.5帖の広さのまま。寝室と同じく床はそのままとし、断熱を施し壁天井の張り替えに加え、アルミ複合樹脂サッシ窓の設置を行いました。正面のカーテン部分は室内の収納スペースとして利用することとしました。

収納端部の壁に設けたアールの曲面壁。小さな工夫ですが圧迫感もなく天井面は軽やかな感じになりました。照明器具は既存利用としました。

◇ ◇ ◇

全ての工事が完了しました。今回は4帖半の二間と水回り室という限られた改修工事でしたが、既存の部屋の広さはそのままに見えない部分の見直しと底上げに向き合った改修でもありました。年々気象状況や気候がより厳しくなっていく中、既存住宅の耐震や断熱性能の底上げもより求められていく必要があるように思います。ご依頼して頂いた住まい手のIさんには住みながらの工事で大変面倒を掛けさせてしまいましたが、工事の進みをひとつひとつ喜んで頂きました。工事に関わって頂いた工事関係者に感謝します。

  07 室内温度測定(2019.08.31更新)


改修工事を終えた後、断熱補強した部屋の温度がどれほど変化したのかを確認するため、住まい手 Iさんの承諾を得て温度測定を行ってみました。

この日(2019年7月27日 午後14時)住まいの外に掛けられていた温度計での外気温は33℃を示してました。陽なたでの直射は長くは立って居られないほどの強さ。一方日陰は日差しは直接当たらないものの風が止まると蒸し暑さで汗が出てくる状況でした。

サーモカメラで室内温度を計測

ここから部屋での計測です。計測器はデザイン室ではすっかりおなじみのサーモカメラを使用しての計測です。それでは計測スタート。上写真は寝室床面の計測。床面は今回新たに断熱補強(ウレタン吹付け断熱)した部分です。カメラに示された温度を見ると31.3℃。外気温より2℃ほど低い温度でしたが、床から伝わる感覚は熱い冷たいはどちらも気にならない程度の体感です。

続いて壁の測定。ここは西面の改修壁で改修する以前は窓が設けられていた部分。計測すると31.9℃。床面とほぼ同様です。ちなみに室内にエアコンを完備していますが測定の間はエアコンOFFの状態で測定しています。季刊情報誌「だん」の解説では夏に良質な眠りをとるための寝室の温度は26℃~28℃と伝えているので、この温度のままでの就寝となると快適ゾーンまで温度を下げる必要がある状況です。


続いて天井面の計測。こちらも計測すると床・壁同様に31℃。これで寝室内(床・壁・天井)が全てが31℃台となり室内表面温度は均一になっていることがわかりました。体感については個人差があるので一概にはなりませんが、デザイン室で導いた体感では夏場エアコンなしで我慢出来る上限温度は概ね27℃まで。27℃以上となると何かしらの室温調整対策が必要と捉えています。

新しく取り替えた窓面も計測しました。この時もエアコンOFFの状態での計測でしたが左右のガラス面で温度の違いが確認されました。原因ははっきり特定出来ていませんが、温度の高い側(32℃)の面には袖に壁があり外壁からの放射熱がガラスに影響を与えているように思いました(低いガラス側方向はガラス窓が連続します)温度差の平均値を取ると周辺壁と同じ程度の温度(31℃)と判断しました。


◇   ◇   ◇


続いて天井から小屋裏内の計測を試みました。天井に設けた点検口の上には断熱材(高性能グラスウール材155ミリ・16k)が施されています。断熱材表面を計測すると先程計測した天井面の温度(31.5℃)より0.5℃高い32℃の温度。天井材(ここでは石膏ボード9.5ミリ)のみで断熱性能が0.5℃あるということでしょうか。

天井の点検口から天井上に上がり小屋裏の温度を計測しました。モニターに表示された温度を見ると45.1℃!これにはさすがに熱さが直ですぐに伝わってきました。屋根自体は断熱していないため理解できる温度ではありますが、やはり断熱のない夏場の小屋裏は非常に熱いです。。

◇ ◇

天井面・断熱ありなしの計測比較

今回一部の部屋については断熱補強を行わずエリア対象外として工事を見送りました。そこで断熱を施した部分と行わなかった部分をテスト比較してみることにしました。上の写真は断熱補強を見送った部屋の天井です。計測すると36℃。モニターからもわかるようにあきらかに屋根(小屋裏)から輻射熱の影響を受けて温度が高くなっていることがわかります。

続いて上写真(断熱未施工)の部屋のそばにある廊下(断熱を施した天井面)の温度です。こちらは32℃。上の画像と比べてみると断熱あるなしの効果がはっきりと確認出来ます。その温度差は3.4℃。天井面の断熱は窓に続いて大きな効果と言えます。


こちらは天井のみ断熱補強を行った部屋の天井。こちらも温度表示は32℃程度。やはり断熱を施した部分の温度上昇は抑えられていることがわかります。

 

 見えるもの=見えないもの 

新築住宅においての断熱は当たり前になっていますが、築年数が30年以上経つような住宅などはその時代の流れにより今回の住宅のように断熱が施さていない住宅が多くあります。現在は技術が進み記事でお伝えした通り計測機器を使うことにより温度の違いも見えるようになりました。室内に現れるデザインは大切です。しかし見えるデザインのみだけではほんとの心地よさや快適性は得られません。そういう意味では見えないデザイン(耐震・断熱)も見えるデザイン同様に大切です。今回依頼をくださった Iさんご夫婦からは工事後、とても快適になりましたとお言葉を頂きました。この住まいについては冬の時期も計測のお伺いを予定としています。ご興味がありましたらまた覗いて頂けますと有り難いです。

夏のレポート 終わり