宮崎県児湯郡の建築設計事務所「とやま建築デザイン室」

宮崎県児湯郡にて住宅設計に関わるご提案を行っています。

新たな断熱等級へのものさし

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政府が示す新たな省エネ仕様の区分表

昨年政府による「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級」への策定委員会が開かれ、新たな断熱性能等級の水準案が公開されました。現在の省エネ基準から今後新築や既存住宅の改修などを進める際この等級の新設に向けて申請や建設においてより高い品質確保の制度改正や動きが予想されます。この記事では現在の基準と今後の性能水準改正に向けた断熱仕様の選択の要点についてお伝えしたいと思います。

政府及び高性能住宅研究団体が示す省エネ仕様の区分表

現在、家や建物を建設する際に設けられている国の制度は省エネ基準(上表赤枠部分)。現在新築や改修などで建設を行う際この基準内容を満たすよう建築基準法で定められています。また基準とは別に経済産業省が取りまとめているZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:通称ゼッチ住宅)の他、一般社団法人20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会(通称:HEAT20 )や同じく一般社団法人新木造住宅技術研究協議会(通称:新住協Q1.0住宅)などから公表されている仕様水準があります。

昨年政府による「住宅の品質確保の促進等に関する法律に基づく住宅性能表示制度におけるZEH水準を上回る等級」の委員会で示されたのは、先に示されたZEH(ゼッチ住宅)より上位水準にあたるHEAT20のG1・G2・G3水準と同じく新住協のQ1.0住宅のL1~L4の断熱水準に近づける形で現行基準(省エネ等級4)を等級5、等級6、等級7とへ3つの新たな上位等級の想定が見込まれています。

基準や水準の仕様には必ずその性能を表すための性能値が示されています。現在建物の断熱性能を示す際に表示されているものは外皮間(建物を取り囲む床・壁・天井や窓の内外)の熱の逃げやすさを表すUA(熱貫流率:ユーエー値)です。日本を8つの区域に分けてそれぞれの地域気候別にその基準値が設定されています。ひとつの見方としてUA値はその値が小さくなるほど外皮間の熱の逃げやすさが小さくなります。

  選ぶ基準は「どんな暮らしをしたいか」というものさし

この断熱性能を決める際にその選択方法は予算に見合わせながら自由に選択出来ますが、ハウスメーカーを始め地域ごとの建設会社や工務店または建築家や建築士により意見や考え方にも違いがあります。そのような中で何を根拠としてこの中から仕様を選げば良いのでしょうか。

その鍵となるポイントは「室温」と「暖冷房費」の2つです。実は断熱性能の選択の際に密接に関わるものがこの「室温」と「暖冷房費」の2つです。具体的には建設する場所によって決まりますが、性能が決まればこの2つもおおよそ掴むことが出来ます。以下「室温」と「暖冷房費」を解説します。

まず第一に室温は専門家だけでなく一般の方にも毎日のように体験しているわかりやすい数値です。例えば朝の室温が何℃になるとか、日中は何まで上がるとか、いつも日本全国天気と共に暮らしている私たちの中から知る数値で一番わかりやすいのはこの「今何?」という体感を通じて知る感覚です。そして室温が事前に大まかに予測出来ればどんな暮らしかになるかをイメージすることが可能になります。

もうひとつの「暖冷房費」。暖冷房費は断熱性能の優劣により暖冷房費が左右されます。わかりやすく示せば断熱性能が高い建物では外気の影響を大きく受けることが少なく僅かな暖冷房のみで過ごすことが出来ます。一方、断熱性能が低い建物は外気の影響を大きく受け室温や室内間の温度差も必然的に大きくなり結果として暖冷房費用が増えることに向かいます。

性能値だけではどんな家になるか掴みにくいものですが「室温」「暖冷房費」という2つのスケールで室内の温熱環境がどのようになるかを知ることで少なくとも後悔しない家づくりに向かうことが出来ます。

  省エネ基準は「夏暑く冬には冷え込む家」

現行の国の基準にあたる省エネ等級4の仕様はそれ以前からの基準の引き継ぎで設けられた基準ですが、この基準は国が決めた今現在での最上位の等級ですが、その性能はお世辞に捉えても最上位ではなく必要最小限での「最低」の基準です。最も国や行政が決める指針や法整備は国民の安全のための最低の暮らしや生活水準を守るためのものですから初めから税金を投与し贅沢となるような法整備は施行出来ないためご尤もと言われたらそのようにはなりますが。。。

冬の朝の室温を表すシュミレーション画像

上の画像は現行の国の基準(省エネ等級4)での冬の朝の設定でシュミレーションソフトにて室温のテストを行ったものです。プランは当室のものでなくウェブで公開されている「国土技術政策総合研究所()・自立循環型住宅への設計ガイドライン」のモデルを使ってシュミレーションしています。温暖地「宮崎」での設定で外気は-1.3℃。温暖地と言っても氷点下の朝はとても寒い朝です。シュミレーションの結果125日冬の朝7時の室温は8℃から11(暖房は前の日の夜23時から翌朝6時までオフの設定)となりました。

このように国の現行基準(等級4)は冬の朝は外気の影響を大きく受けやすく必ずしも住みやすいことにはならない環境です。寒いということは暖房費も多く必要となり、暖房を我慢すれば寒さを我慢する暮らしとなり寒さや冷えから身体への負担や影響も起きやすくなります。ハウスメーカーやビルダー会社または建築家などから「基準を満たしているので大丈夫」と言われてもよく考える必要のある基準です。

  シュミレーションで光熱収支も確認

年間の光熱費の収支を表すグラフ画像

省エネ・温熱環境診断ソフトよる光熱収支のシュミレーション

室温と合わせもうひとつ選択のものさしが暖冷房費を含めた光熱費の目安です。こちらの画像はある設定で行ったシュミレーションによる年間光熱費のグラフと一覧です。光熱費はあくまで建設前に試算する目安的なものですが、前述した暖冷房費の年間費を始め、換気、給湯、照明費の他、調理家電についても大まかな想定として光熱費の目安を把握することが出来ます。シュミレーションはあくまで事前確認の試算的なものですが、当室では計画時と設計時に2つの温熱ソフトで室温と熱収支の確認を行います。

  性能を上げることにはお金が掛かる、でも

では先程示した省エネ基準からそれなりに断熱性能を上げて選択した場合、最初に負担となって来るのが性能を上げるための材料費や建設費等です。上位水準は省エネ基準に比べると断熱材の厚みや密度が高くなることに加え、窓の性能も高性能なものへと変わります。それに伴い建設時の初期費用は材料と施工規模にもよりますが数十万から百万前後の費用が必要となります。

この費用を高いと見るかもしくは必要と見るかは先程示した「どんな暮らしをしたいか」により決まってくると思います。先に言えることとして永く住めば住むほど掛けたコストに見合う暮らしを続けながら掛けたコストを早く回収する方向にも向いやすくなります。一方、住まいを一時的なもの(仮住まいや新居建設前の一時的な居住等)としてそれほど永く住まないなどの目的での暮らしであれば、断熱そのものにお金を掛けるより冷暖房器具等の充足を優先することが良いと言えます。

ただ建設後の手直しや追加工事となると話しは容易なことでなく場合によっては解体や補修を伴い必要以上にお金が掛かることにもなりやすいため、新しく建てる際または本格的に改修を行う時などに合わせ必要な性能を選択するとそれほど大きな後悔には至らなくなると考えます。お金の使い道はいつも悩みや迷いが生じやすいものです。迷った際は「どんな暮らしをしたいか」に振り返ってみる方法と初期の建設費用と建設後の暮らしに掛かる光熱費や月々のお支払いとのバランスで検討すると良いでしょう。

  性能選択は専門家と一緒に

これまで新たな断熱等級に向けて「どんな暮らしをしたいか」という位置づけでお伝えしました。ただ、そうとは言え、家屋の性能を住む方自身が自ら選択するのはイメージするほど容易でないことも確かなことです。そこで必要なのがやはり専門家の存在です。ただ先程お伝えしたようにただ性能値を満たすだけの説明を行うだけの専門家となると生活のイメージは何も浮かんできません。必要なのは性能値と合わせ生活イメージがどのように運べるかまでを伝え共有出来る専門家の存在。数値の意味や暮らしのイメージを共有しながら丁寧に説明する専門家であれば安心して家づくりを進められると言えます。

  この記事のまとめ

新たな断熱等級へのものさし、というお題目でお伝えしました。今後移り変わる断熱等級の流れは過去の最低限の基準の時代から大きく前進する流れです。新たな等級新設は近年の気候変動を取り巻くCO2削減や脱炭素社会に向けての動きが加速したことや政府が進めるカーボンニュートラル社会の実現に向けての流れのひとつ。しかし住宅や家庭ではそんなに大きな括りで捉えても実態がつかめるのは家という器の中での毎日の暑さや寒さ、そして暮らしやすさが最優先の関心事です。家の中での環境が穏やかになれば居心地も良くなり住みやすく安心な暮らしが望めます。暑さ寒さを生じない性能とそれに見合う高効率で必要最小限の設備での暮らしがこれからの理想的のものさしではないでしようか。

01.断熱仕様はより今後グレードアップし新たな省エネ等級が新設される。
02.性能を選ぶものさしは「室温」と「暖冷房費」の2つで考える。
03.省エネ基準は最低限の基準。選択は慎重に。
04.熱収支試算により年間光熱費の目安を知る。
05.高性能はコストが掛かる。建設後のコストも含め見極める。
06.数値と生活イメージ両方を共有出来る専門家を選ぶ。

文/外山 秋人(一級建築士/住宅医)