建物からどれだけ熱が逃げるかを示す表記に使われている外皮平均熱貫流率「UA値」。ここ数年建築業界だけでなく一般メディアなどでも家の性能を示す表現として「UA値は〇〇」など、耳にする機会が増えてきました。UA値とは上図の通り建物内部から窓や壁、屋根や床を通じて外部へと逃げる熱量を外皮(表面)の面積全体で平均した値のこと。この数値の大小によってどれだけ建物から熱が逃げやすいのかを知る指標のひとつとして扱われています。ちなみに、UA値は数値が小さいほど建物からの熱貫流が小さいことを示し、大きいほどその逆の性能を示します。つまり小さな数値ほど熱が逃げにくいということです。
また、日本は東西南北に細長くUA値の基準はその地域気候ごとに8つに分けられ、それぞれの地域ごとに基準値が定められています。ざっくり言うと東(北)日本のUA値は基準が高く小さなUA値、西から南にかけての地域は東(北)比べ基準が低く定められています。一方、関東以南の西日本側では冷房期の日射熱取得率の基準値が定められています。
30坪・平屋プランにて性能を可視化してみる
では、地域分布に応じて国が定める断熱基準(UA値)もしくは断熱等級を満たせば目的の省エネ性能や理想とする快適性が得られるでしょうか。もっとも「お客様の家はUA値〇〇です」と言われてもそれがどんな住まいなのか想像出来るでしょうか?。おそらく数値だけ言われたとしてもピンとこないかと思います。また省エネと言っても何を優先するかで目的手段は異なり、快適性と言っても何をもって快適と言えるかも住まいのケースごとに違いがあります。そこで、ここでは「室温」という誰にとっても最も身近で分かりやすい馴染みある判定方法にて話しを進めてみます。
用意したプランは30坪の平屋の住宅。こちらはシュミレーション用に作成したものですが、家族構成は4人と想定しUA値において冬場に室温がどのように作用するかをシュミレーションソフトを使って検証を試みるというもの。ちなみになぜ冬場の室温なのかというと理由はいくつかありますが、第一に冬の寒さを重要視しているから、が最もの理由です。なぜ重要視するのかというと、暑さよりも寒さの方が身体に及ぼす影響が大きいから、が理由です。近年猛暑などにより夏の暑さからの熱対策も重要ではありますが、夏場は冷房が必須であり適切な日よけと共に備えさえあれば凌げます。一方、冬の寒さについては人体はまず体温を維持することが最優先とされ冷えや寒さが過度に及ぶと心筋や股関節等が硬直しやくすなり、様々な病的要因を起こしやすくなることから暑さより寒さを優先して考える、が検証の目的です。
UA値0.37で冬の朝の室温をシュミレーション
では早速シュミレーション。検証地は宮崎市(7地域)とし建物のUA値は0.37、床壁天井を断熱させ窓については全室樹脂窓を用い冬場暖房なしでの設定で朝7時(外気温-1.0℃)で室温がどのうようになるかを試してみたものが下の図。ちなみに暖房なしの設定にする理由は、暖房しないということではなく、暖房を点けなくても室温がどれほど保てるかを見るための設定です。7地域での国基準のUAは0.87。それに対しこちらはUA0.37の性能値。断熱等級で示すと等級6、かつHEAT20で表すとG2グレード超えの性能です。
いかがでしょうか。外気温-1.0℃に対し室温は10℃は超えてますが、全体的に見ても11℃~14℃程度。11℃~14℃の室温は何もしなければ肌寒く暖房なしでは過ごせない室温です。断熱等級6、G2グレードと言えども冬の朝に暖房なしでこの室温域では低い室温環境であると言わざるを得ない結果です。
UA値0.40で冬の朝の室温をシュミレーション
続いて上と同じプラン(窓の位置や大きさ種類も同じ)で、同じ日時、同じ外気温とし、こちらでは上プランと比較用に一部の断熱方法の変更と換気方式を変えてみてシュミレーションを試みます。
いかがでしょうか。仕様の一部を変更したことによりUA値は0.37から0.40へと下がりましたが、室温は逆に上と同じ外気温-1.0でおおむね18℃~20℃台辺りに保たれてる結果となりました。もちろん机上のシュミレーションによる結果のみで実際の住まい手の生活そのものが盛り込まれているわけではないためこの通りになります、とまでは言い切れません。ただし設定上適切に入力されたものであれば十分可能性としてありとも捉えられます。そして着目して頂きたいポイントはUA値と室温との関係性です。UA値が高い=いい家ということではなく、UA値はあくまでその外皮面積と外皮の仕様から割り出された熱の逃げやすさを示す指標の数値に過ぎません。詳しい解説は割愛しますが、断熱方法や換気方式までをテストすることにより外皮のみではわからなかった室内環境の違いを知れることがお分かり頂けると思います。
評価は室温が無暖房で18℃あること
先ほど申し上げた通りUA値はあくまでもその建物の仕様や構成による熱貫流の度合いによるひとつのデータに過ぎません。大切なのは、その仕様構成によってどんな室内環境がもたらされるのかを知ること。UA値のみだけでなく、室温を含めどんな室内環境を得たいのかにお役立て頂けると幸いです。暖かさを保つ家は必然的に健康にもつながりますしお金の面でも健康志向が高まり恩恵が得られると言えます。
当室は毎回このシュミレーションを住宅計画時に用いながら冬場の朝に無暖房で室温18℃を得られるような温熱計画を進めています。UA値だけではない住まいにご関心ありましたらお気軽にご相談ください。